好きな俳優がいる
好きな俳優がいる。
古畑恵介という人だ。
私は二次元オタクなので、正直舞台には疎い。
だが、彼との出会いは二次元だった。
アイドルマスターSideM。最初のCDには特典お渡し会というのがあり、抽選で当たったのが彼が演じる橘志狼くんのいるもふもふえんだった。
志狼くんは努力の子だ。天才子役、天才子どもモデルに囲まれて、子ども番組でもセンターを取れない埋没した子だった。
そんな彼が、育成していくときに必ず言う台詞がある。
「オレなんて、大勢のアイドルのひとりだと思ってた。オレのこと見ててくれてサンキュー」
哀愁漂う台詞ではないか。担当ではないにしろ、そんな彼のことがずっと気になっていた。
そこに配役されたのが古畑恵介、ふーくんである。
彼は初めて我々Pに姿を見せたとき、こんなことを言っていた。
「ずっとアイマスに出たくて、最初のオーディションからずっと受けて、落ちていた。でも最後に待っていてくれたのが、志狼くんだったんです」
ああ、彼もまた努力の人なのだ。彼になら、大切な志狼くんを任せて大丈夫。
だから私は、お渡し会でふーくんに感謝を伝えた。
「ふーくんが志狼くんを演じてくれることで、もっと好きになりました」
彼は目を見開いて、飛び跳ねて喜んだ。
「それって、演じている中で最高の褒めことば!」
他のふたりも、我がことのようにぴょんぴょん喜んでくれた。
もふもふえんは既にいいチームなのだな、と私は心の底から喜んだ。
以来、ふーくんのことがずっと気になっている。
お洒落さんだ。服飾店に足繁く通い、自分に似合う服を選んで着ている。
髪の色にもこだわっている。
ピアスとか、ネイルとか。
もちろん俳優さんなので、美容にも気を使っているようだ。
そして、とても頭の回転が早い。
主に2.5次元舞台の俳優をしている彼は、その時々で違った顔を見せる。
ファンサのことも常に念頭に置いていて、何をすればファンが喜ぶかを考え、自ら発信している。
間を置かずに次の舞台、イベントとこなしていくさまは、さながらスターだ。
まだ20代も前半、そろそろ後半か?というくらいだというのに、その活躍は目まぐるしい。
ある日、私の中で彼の存在を決定づける出来事が起こった。
仕事が上手くいかない。順調だと思っていた仕事で、クビだと言われた。
絶望だ。やっと見つけた正社員の職だった。けれども絶望が深すぎて、泣くことすら出来ずにいた。
風呂であれこれ思案すること数十分。
「プロデューサー!」
声が聞こえた。もちろん幻聴だが。
その呼び声は、担当のみのりでも恭二でもなく、何故か志狼くんだった。
「プロデューサー、大丈夫か? オトナって大変だな! オレ、どうしたらいい?」
ふーくんの声がついた志狼くんの幻覚が、私を気遣ってくれた。ふいに、涙が溢れた。
以来、来る日も幻覚の志狼くんは私を励まし、駄目な大人の私を慕い、着いてくるようになった。
志狼くんのグッズをお守りにして、心を奮い立たせることもあった。
「一緒にビッグになろうぜ!」
彼は光だ。私の光。家族さえも味方してくれない屑人間には、得がたいほどの。
ふーくんには逆境があった。突然俳優が降板になった舞台の代役。ファンからのブーイングは今も止まっていないらしい。
でも私は、それでも歩みを止めないふーくんが格好いいと思う。
きっと志狼くんはこんな大人になっていくんだろうなあと思える、素敵な俳優さんだ。
だから私は、古畑恵介が好きだ。
今日、ふーくんの舞台公演がある。
せっかくなのでS席で、舞台後挨拶のある日を選んだ。
安い出費ではない。けれど価値のある出費だと思っている。
これからどんな顔を見せてくれるのか。
大好きなふーくんに、会ってきます。