なんでこんなに青いんだよ ― #舞台013 鑑賞レポート
バツン。明かりがついた途端に消える。
ノイズがかった男の声。痛切に、思いを鳴り響かせる。
「神様、いるんだろ? だったらどうか、一度だけでいい、あいつの願いを聞いてやってくれないか――」
LIVEDOG主催、舞台013
9/27 ソワレを観てきました。
男だけの群像劇、いたく感動する少年漫画を読んだ後のような最後に、とても感動しました。
以下、全部ネタバレです。
舞台は少年更生施設、リフォームスクール。
そこに入所した13番は全てに希望を抱かず、馴れ合わず、生きているだけ無駄だとばかりに過ごしていた。
ある日、101番、カインが入所してくる。13番は世話係に任命されて、かなり面倒くさがる。
カインは知的障害があり、記憶に難があるため常にメモを取っていた。年齢より精神が幼く、静かにしてもいられない。
けれど、同室301の仲間、スニークとモズ、隣室の302の仲間たちとも次第に打ち解け、13番の心も変わっていく。
301号室、厭世的な13番、明るいカイン、おかまジョークの強いスニーク、腕っ節の強いモズ。
302号室、モズのライバルサンガ、サンガの親友で足の悪いギリー、やけに頭の良いセタ、心優しい力持ちレトル。
所長ユミルは胡散臭い「愛」のもと、部屋に鍵をかけず教官ふたりに任せきりだ。
カインの障害に思うところのあるカク教官、それでも厳しく接するブランチ教官。
モズとサンガが争ったり、カインとスニークが騒いだり、スクールはそれなりの平穏を保っているかのように見えた。
カインにはアマネという信頼出来る兄がおり、よく面会に来てくれた。
アマネは結婚を控えており、カインの存在に悩みながらも優しく接していた。
カインが初めての面会で「やだ! 一緒に帰る!」と泣きわめくほど。
一方、サンガは子どもが産まれ、モズの父は重病との電話が入った。
ふたりは早く出所するため、一時休戦の約束をする。
その様子を、ギリーはもやもやした心を持ちながら見ていた……。
あるとき、アリシア学園社会奉仕部の学生たちがスクールにやってくる。
名目はスクールの男たちに勉強を教えるボランティアだったが、実際は金持ちの子どもたちの点数稼ぎ。
何度も馬鹿にされ、貶されるうちに、スクール内は大乱闘に。
刃物を持ち出した生徒にレトルが混乱して、モズ、サンガと共に懲罰房行きへ。
ただ、生徒のひとり、カートだけは13番を気にかけていて……というのも、同じ孤児院の出だったのだ。
懐かしがるカートに、そっけない13番。
話はここで終わりとばかりに、追い払ってしまう。
サンガとレトルの抜けた302号室では、不穏な会話が繰り広げられていた。
ギリーの心の揺れに気づいていたセタが、
「僕がモズを殺してあげる」
と悪魔の囁きをする。
そして、懲罰房から出てきた隙を狙って、ペンでグサリ!
「ごめんギリー! 外してしまった!」
ふたりの友情に亀裂を入れるセタ。
サンガはギリーに失望し、その場を去ってしまう。
「あんなやり方望んでない!」
怒るギリーに、セタは慈悲もなくペンを足に突き刺す。
そこにユミルがやってきて――。
実はユミルは変態野郎だった。
深夜にスニークを呼んでは甘言に乗せて情事を迫る日々。
「アタシは、アタシらしく生きたいだけなのにね」
半ば諦めていたスニーク。やがて――事件は起こる。
面会から帰ってきたカインの様子がおかしい。
301号室のことをすっぱり忘れてしまっているのだ。
彼はストレスが溜まると障害の度合いが上がり、健忘が酷くなる。
実は、面会のとき、アマネがとうとうキレてしまったのだった。
「おまえがいるから結婚が破談になったんだ! 障害持ちと一生付き合うのは無理だってさ!」
アマネの精神もギリギリだったのだ。
憔悴したカインは、メモ帳にこう書き記していた。
「かみさま、いちどだけのおねがいです。ぼくをころしてください」
13番は立ち上がる。所内の見学に来ていたカートを人質に取り、屋上の鍵を強請る。
立ち上がる301号室の仲間たち。
スニークはユミルのところへ行き、ギリーをうっかり殺して錯乱していたのを逆手にとり鍵を強奪。
モズは教官を押しのけ、13番の道を切り開く。
そうして辿り着いた屋上は、澄み渡る青空。
「かみさまはね、空の高い高いところにいるんだよ」
かつてカインがそう言っていた。
13番――エンジェという名の男は、勉強の時間にカインが必死で書いた願い事を掲げ、叫ぶ。
「神様! いるんだろう!? 一度だけでいいから、他のことは自分でどうにかするから! どうかあいつの頼みを聞いてくれないか! 『アマネとずっと仲良く暮らしたい』って、あいつの願いをさあ!」
面会室。きてくれた神父にセタは言う。
「友情ってあんな脆いんだね。期待して損した。そうそう、この間屋上まで行った馬鹿がいてさあ! 神様に願い事したんだって! 神様なんて、この世にいないのに! いたらとっくに僕を処断しているはずでしょう! 笑えるよねアハハハハハ!」
神父は言った。
「人の思いを馬鹿にするおまえに、彼を笑う資格はない」
暴走して連行されたセタの行方は、杳としれない。
エンジェが出所した。
教官は最後に、病院の住所を渡す。
「おまえのこと、覚えているといいな」
旅立つ日も、雲ひとつない青空だった――。
あれで泣かない人間はいない。
個性豊かな入所者たちは感情移入がしやすい。カインの存在に少しずつ心を開いていくエンジェは、見ていて微笑ましかった。
モズとサンガの男の友情も熱かったし、スニークの物言いには含蓄があった。
と、ここで私情を挟む。
私は古畑恵介を観にいったと言ったな。
彼は父親殺しのサイコパス、セタ役だったのだ。
最初は物静かで知的な役柄かと思いきや、後半に向かってのコロコロ変わる狂気の演技!
正直怖かった。夢に出る。
全体的に男だからこそ成り立つ渾身の舞台だったので、今日千穐楽を迎える女の子たちの舞台も気になっていた。
……資金に余裕があれば行ったのだが。
そちらは人数が増え、303号室まであるらしい。
やっぱDVDか、少なくともパンフ買っておけば良かったな……。
観る価値の高い素晴らしい舞台だった。
明後日千穐楽まで、無事に駆け抜けてほしい。